不登校という「心のブレーキ」と、責めつづけてしまう自分
朝の光がカーテンのすき間から差し込んでいる。スマホのアラームも、もう何回目かのスヌーズを鳴らし終えている。それでも、身体を布団から持ち上げられない——。
ここでは、仮に「咲良さん」という中学生の女の子の話から、始めたいと思います。
咲良さんは、小学校までは「真面目でがんばり屋さん」と言われるタイプの子でした。宿題も忘れないし、係の仕事もきちんとやる。テストの点も悪くなくて、先生から褒められることも多かったと言います。中学校に入ってからも、最初のうちは、新しい制服に袖を通すことに、少しワクワクした気持ちすらありました。
けれど、クラス替えや部活動、思春期特有の人間関係の複雑さが重なっていく中で、少しずつ「何かが違う」という感覚が募っていきます。
そして、ある日を境に、仲の良かった友達の態度が、微妙に変わり始めました。廊下ですれ違うときに、目をそらされる。グループで話していた輪の中に近づくと、会話のトーンが変わる。LINEの返信も、以前より遅く、そっけなくなっていく。
はっきりとした「いじめ」と言えるほど目に見える出来事はないかもしれません。でも、教室のドアに手をかけるたび、胸の奥がぎゅっと縮むような不安を感じる。そんな日が、少しずつ増えていきました。
そして、ある朝。いつものように目は覚めているのに、身体がまったく動かない、という感覚が訪れます。
起き上がろうとすると、頭の中で、次々とイメージが浮かんでくるのです。
教室に入った瞬間の、あの視線。
グループLINEでの、既読だけが並んだ画面。
「別に」、「なんでもないよ」、と言われて終わる会話。
その一つ一つが、身体の上に重しのようにのしかかってきて、布団から出る力を奪っていきます。
「……お腹、痛い」
そうつぶやいた咲良さんの声は、自分でも驚くほど小さく、弱々しいものでした。
そこから、「不調の朝」が少しずつ増えていきます。
前日の夜は、「明日はちゃんと行こう」と決めているのです。学校の準備もして、教科書もきちんとカバンに入れる。眠る前には、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせています。

ところが、朝になると、頭痛や腹痛、吐き気、めまい……。身体のあちこちが「学校に行きたくない」と訴えているかのように感じられるのです。
咲良さん自身、「さぼりたい」と思っているわけではありません。むしろ、「行かなきゃ」「休んじゃいけない」と、自分にムチを打っている。でも、どうしても身体が動かない。心と身体が、別々の方向を向いてしまったような感覚——。それが、彼女をますます混乱させます。
お母さんのほうも、最初は戸惑っていました。「またお腹痛いの?」「昨日は元気だったじゃない」そう言いながらも、本当に体調が悪いのかもしれないと思い、何度かは休ませることにしました。けれど、それが1週間、2週間と続いていくうちに、お母さんの心にも、不安と焦りが積もっていきます。
「このままで大丈夫なの?」「勉強についていけなくなるんじゃない?」「進路はどうするの?」そんな疑問や心配が頭の中をぐるぐると回り始めると、つい、こんな言葉が口をついて出てしまいます。
「いつまで休むつもりなの?」「甘えてるだけじゃないの?」「みんなだって嫌なことあるけど、ちゃんと行ってるよ」
お母さんも、咲良さんを責めたいわけではないのです。「学校に行けるようになってほしい」という一心から、つい厳しい言葉になってしまう。でも、その一言一言は、すでに自分を責めつづけている咲良さんの心に、さらに重たい石を積み上げてしまいます。
「本当は、私が一番、自分を責めていたんです」
後になって、咲良さんはそう話してくれました。
「行かなきゃいけないのに行けない自分はダメだ、とか。こんなことでつまずくなんて、弱すぎる、とか。“学校に行けない自分”を、誰よりも私が嫌っていました」
不登校の子どもたちは、周りから「怠けている」と見られがちですが、実際にはその逆です。たくさんの「〜しなければならない」を抱えて、自分に「厳しすぎるほど厳しくなっている」ことが多いのです。
ちゃんと行かなきゃ。
みんなに迷惑かけちゃダメだ。
これ以上、親を困らせたくない。
そうやって、自分を追い詰めて、追い詰めて、もう一歩も動けなくなったところで、身体がブレーキをかけてくる。
私は、不登校とは、「心が自分を守るために踏んだ、最後のブレーキ」なのだと思っています。

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さて
ここまでお届けしてきた3つの物語は
全て「心が壊れてしまった話」では
ありません。
むしろ
必死に生き延びようとした結果
心が踏んだ「ブレーキ」の記録です。
では、次回からは
物語で感じたことを
“理解できる形”に変えていきましょう。
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【第0章|公開プロローグ】
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岩永留美
心の傷を回復と成長の力に変える|逆説人生法則メソッド開発



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